優待クロスにおける配当落調整金の解説。一時的な支払いは生じるがコストではない。

金魚

配当落調整金とは?

配当落調整金は、信用取引で建て玉を建てたまま配当権利日をまたいだ場合(受渡日ベース)に、買い方と売り方との間で配当金の受払いを調整するためのものです。買い玉であれば配当落調整金を受け取れますし、売り玉であれば配当落調整金を支払うことになります。

優待クロスの場合は売り玉のまま配当権利日をまたぎますので、配当落調整金を支払うことになります。ただし、売り玉と同数の現物株式も保有しているはずなので、当該現物株式で得られる配当金と損益的には通算されて、実質的なコストは生じません(一般信用売りの場合)。

税金の源泉徴収により、一時的な支払いが生じる

少し理解しにくいポイントなので、実際のお金の受払いをみながら、もう少し詳しく説明します。

配当落調整金は、配当金が支払われるのとほぼ同じタイミングで徴収されます。通常は、配当権利日の2〜3ヶ月後です。

このとき、証券会社では、配当金は税金分を天引き(源泉徴収)して支払うのに対し、配当落調整金はその全額(=税引き前の配当金額そのもの)を徴収します(一般信用売りの場合)。このため、投資家から見ると、その差額分(=天引きされた税金分)のお金が実際に徴収されて出ていくことになります。

が、受け取る配当金と支払う配当落調整金は本来同額なので(一般信用売りの場合)、損益としてはゼロで、利益がなければ税金もかからないはずです。つまり天引き(源泉徴収)された税金は払いすぎ(支払超過)の状態になっています。

払い過ぎは、最後に精算されて戻ってくる

税金の払いすぎ(支払超過)の分は、遅くても翌年のはじめにはちゃんと戻ってきます。

証券会社の特定口座では、1年分(1〜12月)の取引が終了したあと、その1年分の利益と損失がすべて通算されて本来支払うべき税額が計算され、このとき税金の払いすぎ(支払超過)があれば、その分は翌年のはじめに払い戻されるからです。

したがって、配当落調整金は実質的にはコストとはなりません。

売りと買いが別会社だと確定申告が必要。分離課税を選択せよ

現物株式と売り玉を別々の証券会社で保有していた場合などは、配当金と配当落調整金が特定口座の中で自動的に損益通算されません。

この場合には確定申告を行えば、異なる証券会社間の損益を通算することができますので、やはり支払超過分を取り戻すことができます。確定申告の際は、配当所得について分離課税(申告分離課税)を選択するようにしましょう。

配当落調整金は、税法上は株式譲渡損失と同様に扱われます。配当所得について申告分離課税を選択すれば、配当所得と株式譲渡損失(配当落調整金はここに含まれる)を損益通算できます(参考:国税庁タックスアンサー)。

あやまって、配当所得について総合課税を選択してしまうと、配当所得と配当落調整金を損益通算することができなくなります。気をつけましょう。

配当所得で総合課税を選択すると別のメリットがある

余談ですが、配当所得について総合課税を選択すると、株式譲渡損失との損益通算はできなくなりますが、税額控除(配当控除)を受けることが可能になります。

人によっては、こちらのほうが得になる場合があります。一概には言えないのですが、課税所得の金額が比較的少なく、所得に占める配当所得の割合が高いと、配当所得について総合課税を選択したほうが有利になる傾向が見られます。よくよく考えて選択しましょう。

制度信用売りの場合

これまで説明してきたことは、一般信用売りで優待クロスを行う前提での説明です。

制度信用売りと一般信用売りでは、実は配当落調整金の額が違います。各証券会社ごとに整理したのが次の表です。

証券会社配当落調整金額(制度信用売り)配当落調整金額(一般信用売り)
楽天証券配当額 ✕ 84.685%配当額 ✕ 100%
GMOクリック証券配当額 ✕ 84.685%配当額 ✕ 100%
マネックス証券配当額 ✕ 84.685%配当額 ✕ 100%
SMBC日興証券配当額 ✕ 84.685%配当額 ✕ 100%
カブドットコム証券配当額 ✕ 84.685%配当額 ✕ 100%
SBI証券配当額 ✕ 84.685%配当額 ✕ 100%

現時点で、上記すべての証券会社で完全に横並びです。

制度信用売は配当落調整金が少額で済む

制度信用売りの場合は、配当額の84.685%しか配当落調整金はとられません。したがって、配当による所得と配当落調整金による損失を通算すると、配当金の15.315%分が、差し引きの利益となります。

制度信用でクロスするだけで、価格変動リスクなしに、配当金の15.315%が懐(ふところ)に転がり込むわけです。これだけをみると、制度信用でクロスしたほうが、一般信用でクロスするよりも得ですね。

ただし、制度信用には常に逆日歩というリスクがつきまといます。僅かな利益を狙って、その何倍もの損失を出すようなことがないようにしたいものです。

逆日歩が本当に少額で収まるのなら、制度信用を積極的に使っていくことも検討の価値はあります。逆日歩を正確に予測することはできませんが、逆日歩の上限(最高逆日歩)は決まっています。最高逆日歩についてご関心があれば、こちらの記事をご覧ください。

コメント

  1. ナガサキ より:

    質問ですが申告分離課税を選択すれば、配当所得と株式譲渡損失(配当落調整金はここに含まれる)を損益通算できます とありますがこの場合で同じ金額の場合はその金額が還付されますか? なお住民税は申告不要にします。

    • ナガサキさん、質問ありがとうございます。所得税(国税)で申告分離課税を選択した場合、仮に、上場株式等の配当所得の総額と、上場株式等の株式等譲渡損失の総額が同額であれば、源泉徴収された配当所得に対する所得税は、その全額が還付されるはずです。国税庁の確定申告コーナーで特定口座年間取引報告書の数字を打ち込めば、還付額が確かめられるはずですよ。住民税は申告不要とのことですので、証券会社により特別徴収された住民税(配当割)は戻ってこないと思います。

  2. 谷口 より:

    記事の趣旨とは異なるかもしれませんが、質問させていただきます。もしよければご見解をうかがえますと幸いです。

    保有している株の配当を受け取っているほか、いわゆる優待クロス(一般信用)による配当と、配当落調整金があります。特定口座で、源泉徴収有です。
    (優待クロスの買いと売りは全て同一証券口座内)
    配当控除を受けるために、確定申告を行っています。

    優待クロスで生じている支払い超過分は、すでに証券口座内で還付を受けているため、所得税に限って言えば、優待クロスによる支払い超過は解消されたうえで、保有株の配当と、優待クロスの買い分の配当について、配当控除の還付を受けられているという認識で合っているでしょうか。

    • 質問ありがとうございます。回答が遅れました。
      配当所得で総合課税を選択すると、株式譲渡損失(←配当落調整金を含みます)との損益通算はできません。
      仮に証券会社の特定口座で損益通算された後でも、その配当所得を総合課税で年明けに申告すれば、損益通算されないものとして再計算されて改めて課税されます。
      ただし、総合課税を選択すれば配当控除が受けられますので、配当所得が少額の場合(課税所得で330万円?以下)、実質的に所得税が課税されない(配当控除のおかげで実質税税率がゼロになる)ことになります。(→したがって、すでに支払った所得税は還付される)
      一方で、損益通算されない株式譲渡損失は他の譲渡益と通算できますし、翌年度以降に繰り越すことも可能です。
      このように配当所得が少額の場合は、総合課税を選んだほうが得な場合があります。
      いずれにしても税法上の整理としては、配当所得について総合課税を選択すると、配当落調整金(=株式譲渡損)と損益通算されることはありません。

      • 谷口 より:

        証券口座内での還付と実際の申告での計算とがごっちゃになっていました。
        実際の数字を書き出したうえで、ご回答いただいた内容を確認したら頭の中が整理できました。
        ありがとうございました。(お礼が遅れて申し訳ありません)