前回までに、優待クロスのコストが大きく以下の経費から成り立っていることをみてきました。以下の経費のうち、1〜4は売りに関する経費です。5は買いに関する経費です。
- 売建手数料
- 貸株料
- 事務管理費(売建て期間が1月を超える場合のみ)
- 逆日歩(品貸料ともいいます。制度信用売りの場合のみ)
- 現物買手数料(または買建手数料+買方金利)
今回は、上記のうち1.売建手数料と、2.貸株料について説明します。この2つはいずれも、コストのかなりの部分を占めるとても重要な経費です。
売建手数料
売建手数料は、信用売りを行うための手数料です。信用取引の注文を出して約定した場合に証券会社に支払うことになります。各証券会社がそれぞれ信用取引の手数料を定めており、約定金額によって手数料が決まります。約定金額が大きければ大きいほど通常手数料も大きくなります。
上の表は、カブドットコム証券のもの(2019年11月現在)です。一例としてご覧ください。税抜価格です。他の証券会社もウェッブサイト上で容易に確認できます。カブドットコム証券の場合、50万円以下の約定金額であれば比較的安い手数料で取引できます。50万円を超えると急に手数料が跳ね上がります。よく考えて使ったほうが良さそうです。
発注の工夫が節約につながる
各証券会社の手数料体系を把握しておくことは、節約を行う上で非常に役に立ちます。
先のカブドットコム証券の手数料を例に考えてみましょう。例えば、日本ハウスホールディングス(1873)。1000株保有で高級ホテルカレーをいただけます。株価は515円。
1000株をクロスする場合、売建ての仕方によって手数料がかなり違ってきます。具体的な手数料は、以下のとおりです。
- 1000株一括で売り建てると、539円(税抜)
- 500株づつに分けて売り建てると、180 ✕ 2 = 360円(税抜)
- 100株と900株に分けて売り建てると、90 + 180 = 270円(税抜)
注文の仕方を変えるだけで、手数料を約半分にすることができました。
手数料の安い証券会社を使え!手数料無料の証券会社もあるぞ
複数の証券会社で売建て可能な場合は、最も手数料の安い証券会社を選ぶと良いですね。
証券会社の中には、この信用取引手数料を無料にしているケースがあります。SMBC日興証券は、日興イージートレードダイレクトコースの場合、信用取引手数料がすべて無料です。また、SBI証券、楽天証券、カブドットコム証券、GMOクリック証券は、大口取引など一定の条件を満たす顧客に対して信用取引手数料を無料にしています。
信用取引手数料が無料の証券会社で売りを行うことが、優待クロスのコストを引き下げる最も有効な方法の一つです。
SMBC日興証券
SMBC日興証券は日興イージートレードダイレクトコースさえ選べば問答無用で信用取引手数料が無料です。一般信用でも制度信用でも無料です。このため、SMBC日興証券で取引をすると手数料を極限まで節約できます。
ただしSMBC日興証券は、そもそも信用口座を開設するのに300万円以上の金融資産が必要で、多くのネット証券の場合(100万円以上)よりも信用口座開設のハードルそのものが高いです。(参考:日興イージートレード信用取引口座開設基準)
楽天証券
楽天証券は信用取引手数料を無料とするための条件(大口優遇適用)がとても投資家に優しいです。1日だけでも信用新規建約定金額5,000万円以上を達成すると、その後最低でも3ヶ月は大口優遇が適用され、信用取引手数料が無料となります。一般信用でも制度信用でも無料です。
同一銘柄の売りと買いで達成しても良いですし、前場と後場の合計で達成しても良いです。条件を達成するには証拠金として最低でも800万円程度を準備する必要がありますが、可能な方は狙うと良いでしょう。
SBI証券、カブドットコム証券、GMOクリック証券、マネックス証券
SBI証券、カブドットコム証券、GMOクリック証券は信用取引手数料を無料にするハードルがかなり高かったり、手数料無料の適用期間が1日しかなかったりと使い勝手が悪いので、日頃から頻繁に信用取引を行う人でないと活用は難しいでしょう。
マネックス証券は、そもそも信用取引手数料を無料にするプランや優遇はありません。
貸株料
貸株料は信用で売り建てる株式を借りるための経費です。売り玉を建てている間、日割りで付利(課金)されます。消費税は非課税です(参照:国税庁タックスアンサー)。
課金される日数の数え方は受渡日ベースの両端入れ(りょうはいれ)です。両端入れとは、売り建てた日と決済した日が取引の両端(りょうは)になるわけですが、その両端の日を含めた日数分で課金されるということです。
各証券会社がそれぞれ貸株料の料率を決めています。下の表は、カブドットコム証券の例です。料率は年利換算の料率です。
一般信用取引(長期) | 一般信用取引(売短) | 制度信用取引 | |
貸株料の料率 | 1.5%(年利) | 3.9%(年利) | 1.15%(年利) |
料率に応じて日々の貸株料が課金されますので、料率が高いほど、そして売建て期間が長いほど貸株料が嵩みます。
この貸株料は優待クロスのコストの中で最も大きなウェイトを占めることが多いです。極めて重要な経費と言って良いでしょう。貸株料をいかに節約するかが、優待クロスのパフォーマンスに大きく影響します。
貸株料を節約しよう
貸株料を節約する方法は2つだけです。
1つ目は、貸株料の料率の低い証券会社を選ぶことです。
2つ目は、売建て期間を短くすることです。
ここからは、まず1つ目の方法、いかに貸株料の低い証券会社を選ぶかを考えていきましょう。これを押さえておかなければコストの引き下げはできないといっても過言ではありません。
貸株料の低い証券会社を選べ!(一般信用の場合)
貸株料が無料の証券会社は残念ながらありません。一般信用取引における貸株料を低い順に並べたものが次の表です(2019年11月現在)。貸株料はいずれも年利です。
証券会社 | 貸株料(一般信用) | 備考 |
GMOクリック証券(無期限) | 0.8% | 在庫ほとんど無し |
楽天証券(無期限) | 1.1% | |
マネックス証券 | 1.1% | |
SBI証券(無期限) | 1.1% | 在庫ほとんど無し |
SMBC日興証券 | 1.4% | 在庫豊富 |
カブドットコム証券(長期) | 1.5% | 在庫特に豊富 |
GMOクリック証券(短期) | 3.85% | |
楽天証券(短期) | 3.9% | |
SBI証券(短期) | 3.9% | |
カブドットコム証券(売短) | 3.9% |
いくら貸株料が低くても、一般信用売りの在庫がなければ使いようがありません。
楽天証券(無期限)、マネックス証券、SMBC日興証券、カブドットコム証券(長期)の貸株料の低さが目を引きます。これらの証券会社で取引できれば、貸株料をかなり節約できることでしょう。
特にSMBC日興証券と楽天証券(大口優遇の場合)は、この記事前半で説明した信用取引手数料無料とダブルでの経費節減が見込めますので、節約効果が極めて大きいです。可能であるなら、これを使わない手はないですね。
制度信用はどこの証券会社でも貸株料の料率はほぼ同じ
参考までに、制度信用取引における貸株料もまとめておきます。いずれも年利です。
証券会社 | 貸株料(制度信用) | 備考 |
GMOクリック証券 | 1.10% | |
楽天証券 | 1.10% | |
マネックス証券 | 1.15% | |
SMBC日興証券 | 1.15% | |
カブドットコム証券 | 1.15% | |
SBI証券 | 1.15% |
各証券会社間で大きな違いは見られません。制度信用で長期間売り建てる人は優待マニアでは少ないでしょう。短期(2〜4日間)の売建てであれば、各証券会社の料率の違いはほぼ無視できるレベルです。
売建て期間を短くしよう
さて、ここからは、貸株料を節約する2つ目の方法、売建て期間を短くする方法について考えてみます。
結論から言いますと、この2つ目の方法に特効薬のような技はありません。欲しい銘柄をどうしてもクロスしたければ、目をつぶって早めにクロスするしかないことも多いです。ただし、ある程度経験を積むと、早めにクロスすべき銘柄と直前にクロスできる銘柄がわかってきますので、より賢くクロスできるようになるでしょう。
なお一部の証券会社では、注文の仕方を工夫することで少しだけ売建て期間を短くするテクニックが存在します。ちょっとせこい技ですので、正面から正々堂々と取引したいという方にはおすすめできません。どうしてもこの禁断の技を知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
貸株料はどう計算するの?
貸株料の計算は簡単です。売建て金額に貸株料率を日割りで乗じるだけです。算式で表すと以下のようになります。
売建て金額 ✕ 貸株料率 (年利)✕ 売建て日数(両端入れ)/365 = 貸株料
慣れれば電卓片手にものの数秒で計算できるようになるでしょう。よく使う証券会社の貸株料率は自然と覚えます。貸株料が計算できれば、取引コストの大部分が判明します。
最後に
今回は、売りに関する経費のうち売建手数料と貸株料について説明しました。繰り返しになりますが、これらは優待取得コストのかなりの部分を占める最重要経費です。十分中身を理解して最善の取引方法を選択し、極力経費の節約に努めましょう。
次回は、売りに関する経費のうち、事務管理費と逆日歩(品貸料)について説明します。
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