優待クロスのコストは、大きく以下の経費から成り立っています。1〜4は売りに関する経費です。5は買いに関する経費です。
- 売建手数料
- 貸株料
- 事務管理費(売建て期間が1月を超える場合のみ)
- 逆日歩(品貸料ともいいます。制度信用売りの場合のみ)
- 現物買手数料(または買建手数料+買方金利)
前回まで売りに関する経費、すなわち上記のうち1.売建手数料、2.貸株料、3.事務管理費、4.逆日歩(品貸料)について説明しました。
いよいよ買いに関する経費の説明に入ります。今回は上記の5.現物買手数料についての説明です。
現物買手数料
現物買手数料は、株の現物買いを行うのに必要な手数料です。取引の注文が約定した場合に証券会社に支払います。
金額は、各証券会社が約定金額に応じて定めています。下の表はカブドットコム証券が定めている現物取引手数料です。一つの例としてご覧ください。
各証券会社の現物取引手数料は、それぞれの証券会社のウェッブサイトで容易に確認できます。現物取引を行う場合には必ず確認しておきましょう。
発注の工夫が節約につながる
各証券会社の手数料体系をしっかりと把握しておくことは、節約を行う上で非常に有効です。
カブドットコム証券の手数料を例に考えてみます。先の売建手数料の説明でも用いた事例ですが、日本ハウスホールディングス(1873)を例にあらためて説明します。この銘柄の場合1,000株保有で高級ホテルカレーをいただけます。株価は515円。
1,000株をクロスする場合、現物買いの仕方によって手数料がかなり違ってきます。具体的な手数料は、以下のとおりです。
- 1,000株一括で買うと、515,000 ✕ 0.09% + 90 = 553円(税抜)
- 500株づつに分けて買うと、250 ✕ 2 = 500円(税抜)
- 100株と900株に分けて買うと、90 + 250= 340円(税抜)
注文の仕方を変えるだけで、手数料を約4割減らすことができました。
株式移管を使え
優待クロスを行う場合、同一の証券会社で売りと買いの両方のポジションを持つようにすれば、クロスを手仕舞うときに現渡(品渡)を使って手数料無料で手仕舞うことができます。
したがって、信用売りを売り建てる証券会社で現物もセットで取得するのが原則です。しかしながら、必ずしも信用売りを行う証券会社の現物取引手数料が安くないことがあります。そんなときに役立つのが現物株式の移管です。
現物株式は、証券会社間で預け替えをすることができます。ある証券会社で保有している株式を別の証券会社に預け直すのです。これを、株式の移管といい、移管元の証券会社から見ると株式の出庫、移管先の証券会社から見ると株式の入庫となります。
信用売り玉は現物株式と異なり、残念ながら証券会社間で移管することはできません。
証券会社によっては、株式の出庫の際に手数料を取られます。現在(2019年11月)の状況をまとめたのが、以下の表です。
証券会社 | 出庫手数料 | 出庫手続き | 入庫手数料 |
楽天証券 | 無料 | ネット上完結 | 無料 |
GMOクリック証券 | 無料 | ネット上完結 | 無料 |
カブドットコム証券 | 無料 | 要書類提出 | 無料 |
SMBC日興証券 | 1銘柄1,000円(税込) | 要書類提出 | 無料 |
マネックス証券 | 無料 | 要書類提出 | 無料 |
SBI証券 | 無料 | 要書類提出 | 無料 |
上記証券会社の中では、SMBC日興証券以外は手数料無料で出庫できます。入庫は各社とも手数料無料です。
なお、SMBC日興証券は、出庫手数料が1銘柄あたり1,000円(税込)必要ですが、これは特定口座の株式を移管する場合です。一般口座の株式の出庫には手数料はかかりません。ただし、一般口座で取引すると税申告の際の手間が増すので、あまり利用する人はいないでしょう。
仮に出庫無料の証券会社の現物取引手数料が、信用売りを行う証券会社の手数料よりも安い場合は、そちらで現物を取得すれば確実に経費を節約できます。手数料の安い証券会社で現物を取得し、それを手数料無料で出庫して、売り玉を保有する証券会社に移管すればよいのです。
優待クロスに当たっては、証券会社各社の手数料を比較して、できる限り手数料の安い取引を行って節約に努めましょう。
株式移管の注意点
株式移管を用いる場合、注意すべき点があります。以下の事項に十分留意しましょう。
株式移管には日数が必要
株式移管にはある程度の日数を要します。
したがって、権利付き最終日の直前では使いにくいです。移管が終了するまで、クロスを手仕舞えないので、その分、長くクロスすることになり貸株料が嵩みます。移管を用いるほうが得かどうかは一概には言えませんが、少額のクロスであれば、貸株料が少し嵩んでも移管を使ったほうが安くなることもあります。
株式移管には手間がかかる
株式移管は、手続きが意外と面倒くさいです。多くの証券会社では出庫するのに書類提出が必要です。たくさんクロスする人は、とてもじゃありませんがやってられません。
ネット上で手続きが完結する証券会社の方が、手間も少ない上に、移管に要する日数の予見可能性も高く、概して移管日数自体も少なくできるので、格段に使い勝手が良いです。というか、実際ネット上で手続きが完結しないと、面倒くさすぎて、およそ移管しようなどという気も起きなくなることでしょう。
そうなると、実際上使えそうな証券会社は、現時点では楽天証券とGMOクリック証券にほぼ限られちゃいますね。
無料の現物取引を利用せよ
現物取得のコストを極限まで下げる方法は、現物取引手数料が無料の証券会社を使うことです。
実は現物取引手数料は、一部の証券会社が条件付きで無料にしています。楽天証券とSBI証券はいわゆる1日定額プラン(取引毎ではなく1日の約定金額に応じて手数料が決まるプラン)を選ぶと、1日の約定金額が10万円以下で現物取引の手数料が無料になります。
加えて楽天証券の場合は大口優遇が適用されると、取引ごと手数料プランを選んでも、10万円以下の現物取引の手数料が無料となります。
楽天証券とSBI証券以外では、松井証券が10万円以下の取引手数料を無料としています。松井証券は手数料プランが1日定額プランしかありませんので、実質楽天証券やSBI証券と同等です。
岡三オンライン証券は1日定額プランを選べば、20万円以下の取引手数料が無料です。楽天、SBI、松井を上回る安さです。
さらに、アプリ専業の証券会社STREAM(株式会社スマートプラス)は、約定金額に関わらずすべての現物取引手数料を無料にしています。驚きですね。
そのほか、厳密な意味での手数料無料ではありませんが、GMOクリック証券は、グループ会社の株主優待で、一定額まで取引手数料が全額キャッシュバックされます。これは一定額まで手数料が実質無料で取引できるのと同じ効果があります。
例えばGMOインターネット(9449)の株主優待では、GMOクリック証券の取引手数料が5,000円までキャッシュバックされます。
取引手数料と出庫手数料がどちらも無料なら完璧!
松井証券や岡三オンライン証券、STREAMも含めて、あらためて出庫手数料と現物取引手数料の関係を整理したのが次の表です。
証券会社 | 出庫手数料 | 出庫手続き | 現物取引手数料 |
楽天証券 | 無料 | ネット上完結 | 10万円以下無料プランあり |
GMOクリック証券 | 無料 | ネット上完結 | 手数料キャッシュバックあり |
カブドットコム証券 | 無料 | 要書類提出 | |
SMBC日興証券 | 1銘柄1,000円(税込) | 要書類提出 | |
マネックス証券 | 無料 | 要書類提出 | |
SBI証券 | 無料 | 要書類提出 | 10万円以下無料プランあり |
松井証券 | 無料 | 要書類提出 | 10万円以下無料 |
岡三オンライン証券 | 無料 | 要書類提出 | 20万円以下無料プランあり |
STREAM | 1銘柄1,100円(税込) | ネット上完結 | すべての約定金額で無料 |
STREAM(株式会社スマートプラス)の出庫手数料が無料だと、もう他の証券会社はいらないくらいですが、残念ながら、そうはなっていないようです。今後のサービス改善に期待したいところです。
無料で現物取引ができて、無料で出庫できて、なおかつ出庫手続きがネット上で完結するとパーフェクトです。現在のところ全てにおいて完璧な証券会社は存在しませんが、上の表を見る限り、楽天証券、GMOクリック証券、岡三オンライン証券あたりにアドバンテージがありそうです。
最後に
今回は、買いに要する経費として、現物買手数料を説明しました。優待クロスでは必ず現物株式を保有しますので、現物買手数料をきちんと理解しておけば、最低限の取引と節約には困らないはずです。
しかし、現物買いだけを使っていては、節約に限界があるのも事実です。証券会社の手数料体系は、約定金額が大きくなればなるほど現物買いよりも信用買いのほうが手数料が安くなる傾向にあるからです。
次回は、現物買いよりも手数料メリットが大きい信用買いを利用して現物取得を行う方法を説明します。
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