優待クロスのコストは、大きく以下の経費から成り立っています。1〜4は売りに関する経費です。5は買いに関する経費です。
- 売建手数料
- 貸株料
- 事務管理費(売建て期間が1月を超える場合のみ)
- 逆日歩(品貸料ともいいます。制度信用売りの場合のみ)
- 現物買手数料(または買建手数料+買方金利)
前回までに、1.売建手数料、2.貸株料、3.事務管理費、4.逆日歩(品貸料)、5.現物手数料を説明しました。
今回は、買いに関する経費のうち、買建手数料と買方金利について説明します。
信用買い(+現引)を使うメリット
優待クロスを行う場合、現物株式の取得に関しては現物取引を覚えておけば最低限の対応はできますが、コストを切り詰めるためには、現物取引だけに頼っていては限界があります。
なぜなら、現物取引よりも信用取引のほうが往々にして手数料が安く、信用取引を使って現物を取得したほうがコストを低く抑えられるからです。特に、約定価格が大きくなればなるほど、この傾向が顕著です。
信用取引(信用買い)を行ったあと、その買い玉を現引(品受)すれば、現物取引で取得したのと結果的には変わりません。しかも、現物取引と比べて手数料を節約できる場合が多いです。
このため、実際の優待クロスの現場では、取得しようとする銘柄を信用取引で買い建てた上で現引(品受)により現物取得する手法が多く用いられます。
買建手数料及び買方金利
信用買いを行う場合に必要なのが、信用取引手数料(買建手数料)です。信用買いの注文が約定した場合に証券会社に支払います。信用取引手数料は、証券会社のウェッブサイトで容易に確認できます。
買い玉を保有した場合、買方金利を証券会社に支払うことになります。これは、買い玉を建てるのに必要な資金を証券会社から借りる際の利息分です。信用取引の仕組上、証拠金を差し入れた上で取引に必要な資金は証券会社から借り受けることになります。
利息なので消費税は非課税です。(参考:国税庁タックスアンサー)
買方金利は、日割りで課金されます。日数の計算は受渡日ベースの両端入れ(りょうはいれ)です。両端入れとは、買い建てた日と決済(現引)した日が取引の両端(りょうは)になるわけですが、その両端の日を含めた日数分で課金されるということです。このため、信用買いを行って、即日その買い玉を現引(品受)したとしても、1日分とられます。
現物取引と信用取引の手数料の比較
さて、いよいよ本題に入ります。現物取引と信用取引の手数料は実際どうなっているのでしょうか。本当に信用取引のほうが手数料が安いのでしょうか。
各証券会社の現物取引と信用取引の手数料の実態を比較したのが次の表です。買方金利は考慮せず、単純に取引手数料だけで比較してあります。
証券会社 | 約定価格 | 手数料の比較 | 備考 |
楽天証券 | 5万円以下 | 現物<信用 | |
10万円以下 | 現物=信用 | ||
20万円以下 | 現物<信用 | ||
20万円超 | 現物>信用 | ||
楽天証券(大口優遇) | 10万円以下 | 現物=信用 | 現物、信用ともに無料 |
10万円超 | 現物>信用 | 信用は無料 | |
GMOクリック証券 | 20万円以下 | 現物<信用 | |
20万円超 | 現物>信用 | ||
カブドットコム証券 | 10万円以下 | 現物<信用 | |
10万円超 | 現物>信用 | ||
マネックス証券 | すべての価格帯 | 現物>信用 | |
SMBC日興証券 | すべての価格帯 | 現物>信用 | 信用は無料 |
SBI証券 | 5万円以下 | 現物<信用 | |
10万円以下 | 現物=信用 | ||
20万円以下 | 現物<信用 | ||
20万円超 | 現物>信用 |
上の表中の「現物<信用」は、現物取引のほうが手数料が安くなるという意味です。逆に「現物>信用」は、信用取引のほうが手数料が安くなるということです。「現物=信用」は、現物取引と信用取引の手数料が同じです。この場合は、買方金利がかからない分、現物取引のほうがトータルで安くなります。
この表から明らかなように、上記すべての証券会社で、約定金額が大きくなると例外なく信用取引の方が手数料が安くなります。マネックス証券とSMBC日興証券は、すべての価格帯で信用取引の方が手数料が安いです。
注目すべきは、楽天証券(大口優遇)とSMBC日興証券です。備考欄に記載してありますが、信用取引手数料がすべてタダ(無料)です。なお、SMBC日興証券で信用取引手数料が無料となるのは、日興イージートレードダイレクトコースの場合です。
信用買いを用いたほうが得な場合はこれだ!
上記の結果をもとに、信用買い(+現引)を用いた方が現物取引よりも経費が安くなる価格帯をおおよそ証券会社ごとにまとめると以下のとおりです。
証券会社 | 信用買い(+現引)の方が安くなる価格帯 |
楽天証券 | 20万円超 |
楽天証券(大口優遇) | 10万円超 |
GMOクリック証券 | 20万円超 |
カブドットコム証券 | 10万円超 |
マネックス証券 | すべての価格帯 |
SMBC日興証券 | すべての価格帯 |
SBI証券 | 20万円超 |
20万円を超えると、どの証券会社でも信用買い(+現引)を用いたほうが経費を節約できます。楽天証券(大口優遇)とカブドットコム証券は10万円超であれば信用買い(+現引)を用いたほうが良いです。マネックス証券とSMBC日興証券は、問答無用で信用買い(+現引)を選択したほうが良いですね。
信用取引買いは制度信用?それとも一般信用?
信用取引で買い建てる際、一般信用と制度信用のどちらを使った方がよいのでしょうか。
どちらを使おうが、最終的には現引きして現物取得するだけなので、どちらを使ってもかまいません。買建手数料(信用取引手数料)は一般信用と制度信用で変わりませんので、買方金利の安い方を選べばよいでしょう。
買い方金利の実態は?
ここで、各証券会社の買方金利の実態も整理しておきます。次の表をご覧ください。
証券会社 | 買方金利(制度信用) | 買方金利(一般信用) | 備考 |
楽天証券 | 2.80% | 0.00%又は1.90% | 一般信用はいちにち信用 |
GMOクリック証券 | 2.75% | 2.00% | |
カブドットコム証券 | 2.98% | 2.79% | |
マネックス証券 | 2.80% | 3.47% | |
SMBC日興証券 | 2.50% | 3.00% | |
SBI証券 | 2.80% | 0.00%又は2.80% | 一般信用は「日計り」 |
制度信用が安い証券会社と一般信用が安い証券会社が混在していますね。楽天証券、GMOクリック証券、カブドットコム証券、SBI証券は一般信用の方が金利が安く、マネックス証券とSMBC日興証券は制度信用の方が金利が安いと覚えておけばよいでしょう。
楽天証券とSBI証券では、一般信用買いで特定の取引方法を選んだ場合に、約定金額が一定以上になると金利が0.00%になります。楽天証券の「いちにち信用」では約定金額が100万円以上の取引で買方金利が0.00%です。SBI証券の「日計り」信用では約定金額が300万円以上の取引で買方金利が0.00%です。
各証券会社の金利を比べると、楽天証券の一般信用(いちにち信用)の買方金利の総合的な安さが突出していますね。
買建手数料と買方金利をトータルで眺めてみよう
さて、ここまで買建手数料と買方金利をそれぞれ見てきました。ここからは、買建手数料と買方金利をトータルで考えて、最もコストが安くなる証券会社と取引方法を考えていきましょう。
買建手数料(信用取引手数料)は、楽天証券(大口優遇)とSMBC日興証券で無料です。買方金利は、楽天証券の一般信用(いちにち信用)が突出して低いです。
もうおわかりですね。楽天証券(大口優遇)の一般信用(いちにち信用)を用いて信用買い(+現引)を行えば、最も低いコストで現物取得ができます。
この方法を用いると、買建手数料は無料なので、約定金額100万円未満では1.90%の買方金利だけが必要経費です。約定金額100万円以上では買方金利も0.00%となるので、必要経費は0円です。
約定金額100万円以上の場合、これを超える低コストな方法はありません。約定金額100万円以下の場合、これを超える低コストな方法は、前回記事で紹介した現物手数料無料を使う方法だけです。
この方法を用いるためには、楽天証券で大口優遇の適用を受ける必要があります。最低800万円程度の資金が必要で、ハードルは決して低くはないですが、手が届くのであれば頑張って条件を満たしましょう。
楽天証券の大口優遇が使えない場合は残念ですが、買いのコストを極限まで下げることはできません。それでも、ここまでの記事で紹介した方法の中からコストの安いものを選べば、かなりの経費節減が可能でしょう。
現物取得の最終兵器はコレだ!!!
楽天証券の大口優遇で買建手数料を無料にし、さらに同証券の「いちにち信用」で買方金利を低く抑えれば、ほぼ限界まで現物取得の経費を節減できることがわかりました。
これに前回記事で紹介した株式移管を組み合わせれば、どこの証券会社で優待クロスの売建てを行ったとしても、もう心配いりません。同一の証券会社で売りと買いの両方のポジションを揃えてクロスを完成させることができます。
前回記事で説明したとおり、楽天証券は株式の出庫が最もやりやすい証券会社の一つです。出庫手数料は無料です。手続きはネット上で完結し、面倒くさい書類の提出は不要です。
優待クロスの肝はコストをいかに抑えるかです。楽天証券の活用技は、まさに優待クロスにおける現物取得の最終兵器なのです。
最終兵器により、コストはここまで下がる!
なお、楽天証券の活用技を用いた場合の、現物株式取得に要する経費の実額についても見ておきます。
100万円以上の信用買い(+現引)は経費0です。
100万円未満の信用買い(+現引)の経費は、買方金利1.90%のみです。これは、おおむね10万円あたり5円程度と思っておけばよいです。20万円の約定金額で約10円、30万円の約定金額で約15円です。簡単ですね。
最終兵器の弱点
最終兵器にも弱点はあります。というか、注意点です。
ご紹介した楽天証券活用技は、同証券の「いちにち信用」を使いますが、「いちにち信用」はその名のとおり、その日のうちに決済を行なって手仕舞わなければならない信用取引です。
その日のうちに決済(現引)し忘れると、翌日法外な手数料を払って強制的に決済売りされます。かえって高くつきますので、くれぐれも気をつけましょう。
最後に
今回は、買いに関する経費のうち買建手数料と買方金利についてみてきました。
買いに関する経費の節減に関しては、現在のところ完全に楽天証券一強時代です。ここにかわる証券会社はありません。健全で自由な競争のもと、他の証券会社からのさらなる魅力的なサービスの出現を期待します。
次回は、現渡(品渡)しない場合の追加経費について説明します。
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