優待クロスだけじゃない。信用取引を利用した錬金術とは?リスクにも注意。

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信用取引を利用した小遣い稼ぎの投資法としては優待クロスが有名ですが、実は信用取引の妙味は、それだけではありません。

この記事では、信用取引の配当落ちを活用したサヤ取りの投資術についてご紹介します。なお、長らく信用取引に携わっている方にとっては、至極当たり前のことで、目新しい話ではありません。

どちらかといえば、信用取引にあまり馴染みのない方向けの記事となります。

制度信用を用いた錬金術(配当落サヤ取り)とは?

この投資法では、現物株式の保有と「制度信用」による売建てを用いて、クロス取引を行います。

同銘柄を同株数、権利付き最終日までにクロスし、権利落ち日に手仕舞います。それだけです。やってることは、優待クロスと全く同じですね。

それだけで、儲けが出ます。株主優待の有無にかかわらず儲けが出ます。

なぜでしょうか。

それは、現物保有で受け取る配当金のほうが、信用売り(制度信用)で支払う配当落調整金の額よりも多額だからです。

具体的に見ていきましょう。現物保有で受け取る配当金を100%とします。この場合、信用売り(制度信用)で支払う配当落調整金の額は、84.685%です。

その差は15.315%。この分が儲けです。配当金が10,000円とすると、支払う配当落調整金は8,469円。差し引き、1,531円の利益です。

「買い」と「売り」のクロス取引なので、価格変動リスクはもちろんゼロです。市場の動きがどうであろうと、実配当と配当落調整金の差額分がそのまま儲けとなります。(もちろん、取引手数料や貸株料などの経費は別途かかります)

なぜ、「制度信用」なの?

ここから、少し細かく見ていきましょう。

まず、この手法、「制度信用」を使う必要があります。「一般信用」ではダメです。

制度信用と一般信用では、支払う配当落調整金の額が異なります。以下の表をご覧ください。代表例としてSBI証券のものを取り上げました。信用売りに関する配当落調整金を説明した部分の抜粋です。

配当落調整金
(SBI証券ウェッブサイトから引用)

SBI証券以外の各証券会社とも、ほぼSBI証券と横並びの料率体系です。SMBC日興証券も楽天証券も全くこれと同じです。

「一般信用」では、配当金の100%を配当落調整金として支払います。これでは利益は出ませんね。

「制度信用」の場合、配当金の84.685%を配当落調整金として支払います。この場合、その差額が、利益となります。

「逆日歩」の心配はないの?

「逆日歩」の心配はしなくてよいのでしょうか?

この手法は、「制度信用」による売建てを用いますので、当然、逆日歩リスクを伴います。そのため、支払う逆日歩が高額にならないような銘柄をうまく選定する必要があります。

株不足になりにくい銘柄であれば、逆日歩リスクを減らせます。

優待実施銘柄だと、どうしても優待投資家の注目を集めて株不足になりやすいので、それ以外の銘柄を選定するというのも一つの方法でしょう。

もちろん、優待実施銘柄の中にも、大きな株不足になりにくい銘柄は存在します。

買いも制度信用で建てれば良いのでは?そうすれば逆日歩リスクをなくせるよね。

クロスに際し、現物保有の代わりに「制度信用」による買建てを用いれば、逆日歩リスクをゼロにできるのではないか?

制度信用で買建てれば逆日歩を受け取れますので、皆さん、一度はこのように思いを巡らせることと思いますが、結論を言えば、「制度信用」の買建てを用いることはできません。

次の表をご覧ください。信用買いを行った場合の配当落調整金の取り扱いをまとめた部分の抜粋で、SBI証券のものです。

配当落調整金
(SBI証券ウェッブサイトから引用)

制度信用であっても一般信用であっても、買建てで受け取れる配当落調整金は、配当額の84.685%です。これでは、差額がゼロで利益は出ませんね。

なお、買建てに関する料率体系も、証券各社横並びです。SMBC日興証券も楽天証券もSBI証券と同じ料率です。

結論を繰り返します。クロスに際し、信用取引による買建てを用いることはできません。現物を保有することが必要です。そうでないと差額が生まれず、利益が出せません。

どういう銘柄を選べばよいの?

実際、どういう銘柄を選べばいいのでしょうか?

まずは、先にも説明したとおり、「逆日歩」リスクの少ない銘柄を選ぶべきでしょう。配当実施銘柄ではない銘柄や、大きな株不足になりにくい大型銘柄が良いかも。

それと、当たり前ですが大事なことを一つだけ。

この手法は、配当金の大きな銘柄ほど多くの利益を見込めます。逆に無配の銘柄では、全く意味をなしません。間違っても、無配の銘柄を選ばないようにしましょう。間違いなく経費負けするでしょう。

配当金が大きく株不足になりにくい銘柄が最適ということになりますが、権利日が集中する3月や9月であれば、見つかる可能性がひろがるでしょう。

実際に計算してみた

どれぐらいの利益が見込めるのか、実際に計算してみましょう。

さしあたり権利日が直前に迫っている1月銘柄の中から「積水ハウス(1928)」を選んで、実際にどうなるのか見てみましょう。

100株クロスした場合を考えてみます。

同社の予想配当金は82円/株ですので、100株保有した場合、配当金の見込みは8,200円です。

一方、同社株の売建て(制度信用)に伴って支払うべき配当落調整金は、6,945円(=8,200✕84.685%)です。

差し引き、1,255円の利ざやです。

取引に要する経費は、貸株料(3.9%と仮定)が4日分でも100円未満です。取引手数料は無料で計算します。

積水ハウス(1928)は優待実施企業でもあり、例年、権利日には株不足となっています。過去の逆日歩は、100株あたりで、少ないときで数十円、多いときで、600〜700円台で、過去の逆日歩の最大額は直近10年で750円です。

仮に、過去の逆日歩の最大額である750円が今回もついちゃうとして、100株クロスした場合の利益計算をすると次のとおりです。

1,255円(利ざや)ー100円(貸株料)ー750円(逆日歩)=405円(利益)

過去の最大の逆日歩と同額を食らっても、利益が出ますね。

「一般信用」で売建てると、この利益は見込めません。「制度信用」で売建てた場合のみ、この利益を見込むことができます。

しかも、積水ハウス(1928)の場合、1,000株クロスすると、株主優待までもらえちゃいます。新潟魚沼コシヒカリ5kgです。

1,000株クロスした場合は、株主優待のおコメ5kgに加えて、4,050円(=405円✕10倍)の利益ということになります。

もちろん、過去の最大額以上の逆日歩がつくリスクもあります。でもそれが4,050円を上回らなければ、なお「制度信用」のほうが「一般信用」でクロスするよりもお得ということになります。逆日歩が過去の最大額(750円/100株)を下回れば、さらに利益は増すことになります。

なお、誤解なきようにお伝えしておきますが、積水ハウスは、ただの例示として取り上げたに過ぎません。

ワタシは積水ハウス(1928)が最適な銘柄だと思っているわけでもありませんし、皆さんにこの手法をオススメしているわけでもありません。

あくまでも、投資は自己責任でお願いします。

正直、オマエは積水ハウスでこの手法をやるのかと問われれば、多分、答えはNoです。もっとふさわしい銘柄があると思っているからです。

もちろん、積水ハウスの場合、この手法を用いれば、儲かる確率は高いと思っています。過去の最大の逆日歩と同じ逆日歩を食らったとしても、なお利益が見込めますから・・・

でも、それ以上の逆日歩がつく可能性もないとは言えません。ワタシは根が慎重な質(タチ)なので、やっぱり怖いです・・・。いずれにせよ、リスクの大きさはしっかりと認識したほうが良いです。逆日歩の最高料率について別途記事にまとめてありますので、ご興味のある方は、是非そちらの記事もご覧ください。

【関連記事】1月優待の制度信用を検討。最高逆日歩はどうなる?

まとめ

さて、制度信用を活用した、配当落のサヤ取りによる投資術について解説してきましたが、いかがだったでしょうか。

これを使いこなせれば、制度信用の活用の幅が広がり、優待クロスをする上でも、かなり選択肢を広げてくれることでしょう。

優待族の中には、配当落ちの利ざやを狙って、一般信用の売り玉が残っていても、わざわざ制度信用でクロスする人も少なからずいます。

もちろん、逆日歩リスクがつきまといますので、リクス管理は必須です。最高逆日歩(逆日歩の最高料率)を把握した上で、株不足の状況などをよく見極めたほうが良いでしょう。

個人的には、この手法は、優待実施銘柄よりも非優待銘柄で用いたほうが使い勝手が良いと思っています。

この記事が、皆さんの投資のお役に立てれば幸いです。

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