優待クロスについて、お得な確定申告を考える連載の第2回です。なぜ確定申告が必要なのかについては、こちらの記事(第1回)をご覧ください。
お得な納税を考えるための前提として、最低限の税の知識はどうしても必要です。
国税(所得税)と地方税(住民税)
日本の税制は国が徴収する国税と、都道府県や市区町村が徴収する地方税とに分かれています。
個人の所得に対しては、国からは国税である「所得税」が、都道府県及び市区町村からは地方税である「住民税」がそれぞれ課税されます。
優待クロスをやっていると、どうしても配当の受取りが多くなりますが、これに対しても、「所得税」と「住民税」がそれぞれ課税されます。
国税である所得税と地方税である住民税は、所得に課税されるという基本的な仕組みは同じですが(厳密に言えば、住民税の均等割だけは所得に課税されるものではありません)、税率や計算の仕方はかなり異なります。細かいことは、おいおい説明していきますが、この両者が課税されるということは大事なポイントですので、最初にそれだけは覚えておきましょう。
「所得税」という言葉は、おそらく誰もが聞いたことはあると思いますが、「住民税」となるとだいぶ馴染みが薄いかも知れません。
実際、住民税の仕組みはかなり複雑で正直わかりにくいです。
主婦のAさんが確定申告に際して最も悩むのも、実は住民税に関してだったりします。
確定申告は国税の申告。じゃあ住民税は?
ここで、確定申告というものについても、あらためておさらいしておきましょう。確定申告とは、1年間の所得と税額を計算し、それを申告して納税する行為です。
確定申告は税務署に対して行います。税務署は国税庁という国の組織の下部機関です。
実は、確定申告というものは、あくまでも国税の申告なのです。確定申告書の様式に記載される納税額は、国税の納税額ですし、還付される金額もあくまで国税に関して還付される金額です。地方税の納税額や還付額は一部の付表を除いて出てきません。
では、地方税は一体どうなっちゃうのでしょうか?
実は、主婦のAさんが税務署に提出した確定申告書は、税務署から市区町村の税務当局に送られます。そこにはAさんの収入や所得に関する情報が網羅されていますので、その内容をもとに、市区町村で住民税が計算されることになっています。
したがって、国の機関である税務署に確定申告を行えば、あらためて、市区町村の窓口に行って住民税の申告を行う必要はないのです。
国税と地方税で異なる申告?!
しかしながら、例外的に、国税と地方税とで異なる申告をしたい場合には、税務署に確定申告を行うだけでなく、あらためて、市区町村の税務窓口に行って、申告をやり直す場合があります。
国税と地方税で異なる申告って、いったい何ですか?と、おそらく皆さん思ったことでしょう。
この話は、今回はこの辺にとどめておきますが、優待クロスに関して住民税の節税を考える場合に、かなり重要な話になってきます。追って詳しく説明します。
ここでは、国税と地方税で異なる申告をすることがあるということだけ、なんとなく覚えておけばよいです。
「収入」と「所得」
税金を考えるうえで、「収入」と「所得」の概念、及び両者の違いについて押さえておきましょう。これがわからないと、ちょっと税金を理解することはできないです。といっても、それほど難しい話ではありません。
簡単に言うと、こういうことです。
「収入」ー「必要経費」=「所得」
大事なのは「所得」
税金を考えるうえで特に重要なのは「所得」です。なぜなら、税金というものは「所得」に対して課税されることになっているからです。「収入」がいくら多くても、それ以上に必要経費が嵩み、「所得」が生じない場合、つまり儲けがない場合には課税されません。
主婦のAさんがパートでもらってくるお金は給与という名の「収入」です。パート勤めといえど、働いている以上、服装やらなんやらで、出費を伴います。これが必要経費となるのですが、この必要経費は給与収入に関しては、一定の計算方式で擬制計算されます。「給与所得控除」というのがその必要経費に当たります。
給与の額(=給与収入の額)から必要経費として給与所得控除を行った残りが、「給与所得」となります。税金は、あくまでも、この「所得」に対して課税されるのです。
配当収入と配当所得
優待クロスを行っている場合にもっとも問題となるのが、クロスすればするほど膨れ上がる配当金です。受け取った配当金は「配当収入」です。ここから、以下のように「配当所得」が計算されます。
「配当収入」ー「株式取得に要する借入金の利子(=必要経費)」=「配当所得」
配当収入に関して必要経費と認められるのは、その配当を得るための株式取得に要した借入金の利子だけです。それ以外の経費は、必要経費とは認められません。税法上そうなっています。
このため、借金をしてまで優待クロスをしない限り、配当収入に関して必要経費は計上できません。必要経費を計上しない場合、「配当収入」と「配当所得」は等しくなります。
ほとんどの方は、配当を得るために借金をすることはないでしょう。この場合、もらった配当の額(=配当収入)がそのまま「配当所得」になります。
株式の取引に関する収入、所得及び必要経費
「収入」と「所得」の違いを最も理解しやすいのは、株式の取引の例です。株式を売却した場合、その売却代金全部が「収入」になります(現物売りの場合)。一方で、その株式を取得するときに支払った代金や取引手数料などが必要経費となります。
したがって、株式の売買に関しては、「収入」は巨額でも、「所得(=株式等譲渡所得)」は少しだけ、場合によってはマイナスということも全然珍しくありません。
信用取引で株式の売買を行う場合は、貸株料や事務管理費、配当落調整金などの支払いも必要経費です。優待クロスをやっていると、配当落調整金の支払いが膨らみますので、クロスすればするほど必要経費が増え、「所得(=株式等譲渡所得)」がマイナスになっていきます。
税の世界においては、「収入」と「所得」は、厳密に使い分けられます。「収入」と「所得」の概念が異なること、課税はあくまでも「所得」に対して行われることを理解することは、お得な納税を考える上で必須なので、よく覚えておきましょう。
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