優待クロスを行った場合のお得な確定申告について考える連載の第4回です。
前回までに、確定申告の必要性(第1回)、税の基礎知識(第2回)、税の計算方法(第3回)について見てきました。まだ、ご覧になっていない方は、ぜひご覧ください。
さて、いよいよ本題に入っていきます。
優待クロスを行うと、好むと好まざるとに関わらず、配当金の受取りと配当落調整金の支払いが発生します。
優待クロスに関する税金を考えるということは、突き詰めれば、配当金の受取りに関する税金と、配当落調整金の支払いに関する税金を考えるということにほかなりません。
今回は、配当の受取りについて、税金という観点から整理していきます。
なお、以下の説明は、すべて上場株式に関する配当の受取りを前提に説明してあります。上場株式以外の場合は、取り扱いが異なる場合があります。
配当の受取りに関する税金
配当を受け取ったということは、配当収入が生じたということを意味します。配当収入から必要経費を差し引いたものが、配当所得となります。
なお、配当収入に関して認められる必要経費は、その配当を得るための株式の取得に要した借入金の利子だけです。
ほとんどの方は、配当で受け取った金額(=配当収入)が、そのまま配当所得になるでしょう。このあたりの事情については、第2回の記事で詳しく説明してありますので、ご関心があれば、こちらをご覧ください。
さて、所得があれば課税されるのが税金の世界の常識でございます。
配当所得には2つの税金(所得税、住民税)が課税される
配当所得にも、当然課税が行われます。あなたが嫌だと泣きわめいても、課税は行われます。納税は国民の義務なのでさっぱり気持ちよく納税しましょう。
課税されるのは所得税と住民税です。2つも課税されるなんてひどいですね。所得税は国税の一つで、国が徴収する税金です。住民税は地方税の一つで、都道府県及び市区町村が徴収する税金です。
配当所得には国税である所得税と地方税である住民税の2つの税金が課税されるということを、まずは覚えておきましょう。
証券会社から送られてくる特定口座年間取引報告書をみると、1年間の配当等の額をまとめた表の中に、「源泉徴収税額(所得税)」という欄と、「配当割額(住民税)」という欄があるはずです。
この欄に記載されている数字が、それぞれ、証券会社によって天引きされた所得税と住民税の額です。
配当所得に対する課税①(所得税)
まずは、所得税から見ていきます。
配当所得には、所得税が課税されます。
配当所得に関する所得税については、総合課税と分離課税のいずれかを選べます。
もうすでに、「何のこっちゃ?」という感じですね。
総合課税や分離課税という言葉は、税金の計算方法を表す用語です。
総合課税とは、配当所得以外の様々な所得を合算して、税金を計算する方法のことです。分離課税とは、その所得(ここでは配当所得)だけを他の所得と切り離して、税金を計算する方法のことです。
もう少し具体的に見ていきましょう。
総合課税の場合の計算方法
総合課税の場合は、所得に応じて税率が変わります。所得が多ければ多いほど、税率が高くなります。いわゆる累進課税というやつですね。税率は、以下の通りです。
上の表のとおり、所得の金額に応じて、税率は5%〜45%となります。
もう少し丁寧に説明すると、仮にあなたのベースの所得として、給与所得などが200万円あれば、そこに配当所得が加わると、その配当所得に実質的に課税される税率は10%になります。
仮にあなたのベースの所得として、給与所得などが400万円あると、そこに配当所得が加わった場合の、その配当所得に実質的に課税される税率は20%になります。
あなたの給与などの所得が仮に1,000万円あると、そこに配当所得が加わった場合の当該配当所得に課税される税率は33%に跳ね上がります。
なお、この場合の給与などの所得とは、あなたが受け取る給料等の額そのものではありません。給料等の額から給与所得控除などを差し引いた後の課税所得のことです。
「所得」の概念を理解することは、税を考える上での基本中の基本です。詳しい説明は、こちらの記事をご覧ください。
ベースの所得が高ければ高いほど、そこに配当所得が加わった場合、その配当所得については、高い税金を払わなければなりません。
計算式は次のとおりです。
配当所得 ✕ 税率(5〜45%) = 税額
総合課税には「配当控除」あり
もう一つ、大事な点を付け加えておきます。極めて大事なポイントです。
総合課税を選ぶと、「配当控除」という税額控除が受けられます。
分離課税を選んだ場合には、この「配当控除」は受けられません。
配当控除の計算はかなり複雑ですが、課税所得が1,000万円を超えるような高給取りでない限り、株式の配当金については、その配当金の金額の10%の額の配当控除を受けられます。
所得が少ない主婦のAさんの場合は、間違いなく、株式の配当金の10%の額の配当控除を受けられます。
したがって、税金の計算は、実際には以下のようになります。
配当所得 ✕ 税率(5〜45%) = 税額
税額 ー 配当控除(配当金額✕10%) = 納税すべき税額
上の式をよく見てください。鋭い方はピンときたことでしょう。そうです。配当所得に実質的にかかる税率が10%以下だと、配当控除のおかげで、税金を払わなくても良くなるのです。
課税所得が330万円以下だと、配当所得にかかる税率は、10%かそれ以下になります。
つまり、課税所得が330万円以下の人は、総合課税を選べば、配当所得について、税金を払わなくて良くなるのです。
もちろん、主婦のAさんも、その一人です。
これはうれしいですね。
証券会社によって天引きされた税金は、本来は払わなくても良い税金だったわけで、確定申告をすれば戻ってきます。
分離課税の場合の計算方法
一方の分離課税の場合は、税率は15%(復興特別所得税を加えると15.315%)で一定です。
給与所得などのほかの所得がいくらであろうとも、分離課税の場合は関係ありません。他の所得とは切り離して、配当所得だけで税金を計算します。
計算式は、こうなりますね。
配当所得 ✕ 税率(15%) = 税額
分離課税には「損益通算」あり
分離課税を選択した場合、残念ながら「配当控除」は受けられません。
一方で、分離課税を選択すると、「損益通算」することができます。
また、専門用語が出てまいりました。「損益通算」って何でしょう?
「損益通算」とは、ある所得を、ほかの所得に係る損失と通算して、その課税所得を減らすことができる仕組みのことです。
配当所得については、株式等譲渡所得という別の所得に係る損失(=株式等譲渡損失)と通算できます。
具体的に説明しましょう。
例えば、株式の配当所得が10万円あって、別途、株式の売買で3万円の損失(←株式等譲渡損失)があった場合に、10万円の所得と3万円の損失を損益通算して、配当所得を7万円(10万円ー3万円)に減らすことができるのです。
株式の配当所得が10万円で、株式の売買の損失(←株式等譲渡損失)が15万円だったとすれば、損益通算後の配当所得は0円です。配当所得が0円になると、税金を納める必要もなくなります。
上の例では、15万円の損失のうち、5万円については配当所得(もともと10万円)から引ききれませんでしたが、この5万円については、確定申告をすれば翌年度以降に繰り越すことができます。
この結果、翌年度以降の税金も少なくすることができます。
この「損益通算」の仕組みを使えるのは、分離課税の場合だけです。総合課税を選択した場合は、損益通算はできません。
損益通算を加味すると、分離課税の場合の税金の計算式は次のようになります。
( 配当所得 ー 株式等譲渡損失 )✕ 税率(15%) = 税額
総合課税と分離課税のどちらが良いの?
総合課税と分離課税のどちらがお得でしょうか。それは、あなたの状況次第です。
一般的には、配当所得以外の課税所得が少なければ少ないほど、税率が低くなる総合課税が有利です。逆に配当所得以外の所得が多ければ多いほど、税率が一定の分離課税が有利です。
また、株式等譲渡損失が多ければ多いほど、損益通算の使える分離課税が有利になります。
ただし、課税所得が一定以下(330万円以下)の方は、問答無用で、配当控除の強力な恩恵を受けられる総合課税のほうが有利です。
主婦のAさんは、もちろん総合課税を選択します。
配当所得に関する課税②(住民税)
次に、住民税を見ていきましょう。
配当所得には、住民税が課税されます。
住民税についても、所得税の場合と同様、総合課税にするか分離課税にするかを選べます。
総合課税と分離課税では、やはり税率が違います。
総合課税の場合の計算方法
総合課税の場合、住民税の税率は10%です。所得税と異なり、累進課税ではありません。
配当所得に関する税金の計算は、次のようになります。
配当所得 ✕ 税率(10%) = 税額
やはり総合課税に「配当控除」あり。しかし・・・
住民税の場合にも、総合課税を選択すると、「配当控除」という税額控除を受けられます。
分離課税の場合は、この配当控除は受けられません。この点も所得税の場合と同じです。
配当控除の額は、課税所得が1,000万円を超えるような高給取りを除き、配当金の金額の2.8%です。
この結果、税金の計算式は、以下のようになります。
配当所得 ✕ 税率(10%) = 税額
税額 ー 配当控除(配当金額✕2.8%) = 納付すべき税額
さあ、どうでしょう。住民税の場合は、所得税のように、完全に税金がタダになるということはないようです。
配当所得に課税される税率が、実質7.2%(10%ー2.8%)に下がるという結果にとどまります。
配当控除のパワーが、所得税の場合よりもだいぶ劣るようです。もちろん、無いよりはマシですが・・・
分離課税の場合の計算方法
分離課税の場合は、税率は5%です。
配当所得に関する税金の計算は次のとおりです。
配当所得 ✕ 税率(5%) = 税額
分離課税にするだけで、税率が総合課税の場合の半分になっちゃいますね。この5%という税率は、総合課税で配当控除を加味した実質的な税率(7.2%)よりも低い水準です。
分離課税に「損益通算」あり
分離課税の場合、配当控除は受けられません。
一方で、分離課税の場合は、株式等譲渡損失との「損益通算」ができます。
この「損益通算」は総合課税を選択した場合には使えません。分離課税の場合だけ「損益通算」することが可能です。
所得税の場合と全く同じですね。
損益通算を加味すると、分離課税の場合の税金の計算式は次のようになります。
( 配当所得 ー 株式等譲渡損失 )✕ 税率(5%) = 税額
総合課税と分離課税のどちらが良いの?
住民税については、総合課税と分離課税のどちらを選んだほうが有利でしょうか?
そうです。税率の低い分離課税を選んだほうが有利です。
先に述べたとおり、配当控除を考慮しても、なお、総合課税の場合よりも分離課税の場合の税率が低いです。
まとめ
今回は、配当を受け取った場合の税金について見てきました。
お得な納税を考えるこの連載の中で、最も中核をなす説明の一つです。
配当を受け取った場合、言い換えれば配当所得が生じた場合には、その所得に対して課税されます。
課税されるのは所得税(国税)と住民税(地方税)です。
配当所得に関しては、所得税の場合であっても住民税の場合であっても、総合課税か分離課税か、二つの計算方法のどちらかを選ぶことができます。
総合課税を選んだ場合と、分離課税を選んだ場合とでは、税率が異なります。
総合課税を選ぶと、配当控除という税額控除を受けられます。
一方で、分離課税の場合は、株式等譲渡損失との損益通算が可能です。
どちらを選ぶのかは、納税者であるあなた自身が決めることができます。
国税庁のウェッブサイトに、上記を整理した図が掲載されていましたので、参考までに、ここに引用しておきます。国税庁の作った図なので、住民税については記載が不足している部分もあります。
主婦のAさんの場合は?
所得の少ない主婦のAさんの場合は、所得税(国税)については、総合課税のほうが有利なようです。
また、住民税(地方税)については、分離課税にしたほうが有利なようです。
でも、所得税で総合課税、住民税で分離課税なんていう都合の良いことができるのでしょうか?その点については、また後ほど説明します。
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