優待クロスを行っている場合のお得な納税方法について考える連載の第5回です。
前回(第4回)は配当金の受取りに関して説明しましたが、今回は、その裏で生じる配当落調整金の支払いについての説明です。
優待クロスを行えば行うほど、配当金の受取りが増える裏側で、配当落調整金の支払いも膨らみます。
配当金を受け取った場合に税金を払わなければならないのなら、逆に配当落調整金を支払った場合には、その分、税金をまけてもらいたいですね。果たして、そううまくいくのでしょうか?
なお、今回の記事に関しては、基本的に所得税(国税)と住民税(地方税)の両方に共通の内容となっております。
配当落調整金の支払いは株式等譲渡損失
配当落調整金とは、信用建玉を有したまま権利日をまたいだ場合に、配当金の受払分を買い玉と売り玉との間で調整するためのお金です。
買い玉の場合は、配当落調整金を受け取れますし、売り玉の場合は、配当落調整金を支払うことになります。
優待クロスをやっている場合は、優待取得に必要な現物株式と、それと同数の売り玉を保有しますので、売り玉に関して配当落調整金の支払いが生じます。
配当落調整金を支払った場合は、その支払った金額は株式等譲渡所得のマイナス(株式等譲渡損失)となります。逆に受け取った場合には、株式等譲渡所得のプラス(株式等譲渡益)となります。配当所得とはなりません。間違えないようにしましょう。
配当所得、株式等譲渡所得と「損益通算」
配当所得と譲渡所得(株式等譲渡所得も譲渡所得です)とは、本来、まったく別の所得と税法上は認識されています。
配当所得は、企業が儲けた利益の分配です。譲渡所得とは、資産を譲渡(売却も譲渡です)することによる所得です。
税の世界では、通常、同じ所得の中では、プラス(益)とマイナス(損失)はすべて通算されて、最終的な所得の額が計算されます。
例えば、株式等譲渡所得は、譲渡益と譲渡損失のプラスとマイナスが差し引きされて、最終的な所得の額がはじき出されます。
しかし、税法上、異なる所得の間では、プラス(益)とマイナス(損失)が当然に通算されるということはありません。
異なる所得の間でプラスとマイナスを差し引きできるのは、税法上認められた一定の場合だけに限られます。この仕組みを「損益通算」といいます。
上場株式等の譲渡所得のマイナス(株式等譲渡損失)は、損益通算ができるものの一つであり、一定の要件のもと、これを上場株式等の配当所得から差し引くことが認められています。
余談ですが、配当所得のマイナスを、株式等の譲渡所得から差し引くことは認められていません。逆は真ならずですね。
損益通算の効果
損益通算により、株式等譲渡所得のマイナス(株式等譲渡損失)を配当所得から差し引くことができます。
もう少し噛み砕いて言うと、配当金の受取額(配当所得)から配当落調整金の支払額(株式等譲渡損失)を差し引くことができるということです。
優待クロスの場合、逆日歩を避けるため、一般信用売りを使っているケースが多いと思いますが、この場合は、ほとんどの証券会社で、受け取る配当金(税引き前)と、支払う配当落調整金が同額です。
このため、配当所得の課税所得は、差し引きゼロとなります。
配当金の受取りで課税される税金を、配当落調整金の支払いでそっくりそのまま、まけてもらうという結果になりますね。一安心です。
損益通算のおかげで、優待クロスをしても、もう税金は恐くありませんね。
損益通算の可否
ただし、損益通算は、常に使えるとは限りません
株式等譲渡所得のマイナス(株式等譲渡損失)を差し引くことができるのは、分離課税を選択した配当所得だけです。
総合課税を選択した配当所得からは、株式等譲渡損失を差し引くことはできません。すなわち、配当所得で総合課税を選択すると損益通算は使えません。
こりゃあ、大変ですね。じゃあ、総合課税なんか選択したら馬鹿じゃねーか。と、思ったあなた、その認識は誤りです。この辺の詳しい説明は、こちらの記事(第4回)をよく読めば分かります。
結論をいえば、総合課税を選択するのは、おそらく、配当控除の適用を受けることにより、損益通算などしなくても配当所得への課税を回避できる場合でしょう。
そもそも損益通算などしなくても、配当所得への課税を回避できるのであれば、損益通算をせずに株式等譲渡損失をそのまま翌年度以降に繰り越したほうがお得です。
そうすれば、翌年度以降の納税額を減らすことにつながるからです。
配当所得について総合課税と分離課税のどちらが有利かについては、さきほどご紹介したこちらの記事(第4回)に整理してあります。まだご覧になっていない方は、ぜひお読みください。
証券会社が勝手に損益通算してくれる?!
もしあなたが証券会社の特定口座(源泉徴収あり)で取引を行っているのなら、実は、天引きする税金の計算に関して、証券会社がその特定口座の中で勝手に損益通算をしてくれてます。
このことは、特定口座年間取引報告書を見れば分かります。1年間の配当等の受取りを整理した表が載っているはずですが、最後の税金を計算するときに、受け取った配当金などの額から、株式等譲渡損失の金額があればその額を差し引いて、「納付税額」を計算しているはずです。
「納付税額」が天引きされた税金の額よりも少なくなる場合は、税金を余計に天引きしていることになりますので、さらにその下の「還付税額」というところに戻ってくる税金の額が記載されているはずです。
「還付税額」は、年明け早々に証券会社の口座に現金で戻されます。
証券会社もきっちり仕事をしてくれている感じですね。
他の証券会社とは損益通算してくれない
ただし、証券会社が損益通算をしてくれるのは、その証券会社の特定口座の中だけです。
異なる証券会社の特定口座の間では、損益通算など当然してくれません。
異なる証券会社の間で損益通算をしたければ、やはり確定申告するしかありません。
あなたが仮に、現物取得は楽天証券、売建てはauカブコム証券の変則クロスをしていれば、配当の受取りは楽天証券の特定口座、配当落調整金の支払いはauカブコム証券の特定口座になるはずです。
この場合は、証券会社が勝手に損益通算してくれることはありませんので、自分で確定申告をしなければなりません。
確定申告をしなかった場合、楽天証券の特定口座では、配当金の受取りに対し満額の税金が徴収され、それをauカブコム証券の株式等譲渡損失でまけてもらうことができなくなります。
こんなことになっては、悲しいですね。
まとめ
今回は、配当落調整金の支払いと、その税金上の取扱いについて見てきました。
配当落調整金を支払った場合、それは株式等譲渡損失になります。
株式等譲渡損失は、配当所得から差し引くことができます(損益通算)。
この結果、優待クロスをしても、配当金の受取りに係る税金を配当落調整金の支払いでまけてもらえるので、税金を払わなくて良くなります。
損益通算ができるのは、配当所得で分離課税を選択した場合です。総合課税を選択した場合は損益通算できません。
ただし、総合課税を選択すれば配当控除(税額控除)が受けられますので、それで納税を回避できるのであれば、総合課税を選択したほうがお得です。
前回の記事(第4回)のまとめのところでも掲載しましたが、再度、国税庁のウェッブサイトの図を参考までに載せておきます。
優待クロスの場合、配当落調整金の支払いは、配当金の受取りとセットで生じるものであり、今回の記事の内容は、配当金の受取りについて説明した前回の記事(第4回)の内容を、裏側から再度眺めてみたものと言えるでしょう。
ぜひ、前回の記事(第4回)と併せてお読みください。
コメント
いつも有益な記事ありがとうございます^^
いきなりで恐縮ですが、こちらの記事の中の【他の証券会社とは損益通算してくれない】←まさに、配当金の受け取り設定を誤り
この状態になっています。
配当金で支払っている税金を確定申告にて取り戻したいのですが、
申請する場合は、総合課税or分離課税のどちらに該当するのでしょうか?
いつもご覧いただきありがとうございます。
是非、こちらの記事をお読みください。所得が少ない方の場合は、総合課税がオトクな場合が多いです。https://meshboukou.com/shareholderincentives/costcut/smarttaxreturn1/