
優待クロスを行う場合のお得な納税について考える連載の第6回です。
前回までに、配当を受け取った場合の税金(第4回)と、配当落調整金の税務上の取扱い(第5回)について見てきました。
今回は、配当所得に関して、納税者という立場からどのような選択肢を取り得るのかということについて、あらためて説明します。
内容については、配当所得や配当落調整金の支払い(=株式等譲渡損失)を念頭に置いたものですので、以前の記事と重なる部分も含まれます。
優待クロスを行った場合の選択肢は?
主婦のAさんは、株主優待が大好き。優待クロスをやっています。
優待クロスのおかげで、配当金の受取りと、配当落調整金の支払いがあります。
Aさんは税金のことを気にかけています。できればあまり税金を払いたくない。天引きされた税金はどうなるの?お得な納税方法はないものか?こんなAさんが、どういう選択肢を取り得るのかについて、まずは見ていきましょう。
なお前提として、Aさんは、証券会社の特定口座(源泉徴収あり)で取引を行っています
選択肢は3つ
所得があれば課税が生じるのが税の世界常識。配当所得についてAさんの取り得る選択肢は次の3つです。
- 総合課税を選択
- 申告分離課税を選択
- 申告不要を選択(←確定申告しない場合はコレ)
上の3つの選択肢のうち、1.総合課税と2.申告分離課税を選択する場合は、確定申告が必要です。
確定申告をしないこと(申告不要を選択すること)も認められています。ただしこれが認められるのは、特定口座(源泉徴収あり)で取引を行っている場合だけです。
3つの選択肢のメリット・デメリットは?
3つの選択肢を選んだ場合の、それぞれのメリットとデメリットを、ここであらためて整理しておきます。
内容は、前々回(第4回)と前回(第5回)の記事で説明した内容のおさらいです。
メリット | デメリット | |
総合課税 | ・強力な配当控除が受けられる(所得税) ・配当控除が受けられる。ただし非力(住民税) ・所得が低いと税率(5%〜)が低い(所得税) | ・株式等譲渡損失と損益通算できない(所得税・住民税) ・所得が高いと税率(〜45%)が高い(所得税) ・税率(10%)が高い(住民税) |
申告分離課税 | ・株式等譲渡損失と損益通算が可能(所得税・住民税) (他の証券会社とも可能) ・所得が高くなっても税率(15%)は一定(所得税) ・税率(5%)が低い(住民税) | ・配当控除を受けられない(所得税・住民税) ・所得が低くても税率(15%)が一定(所得税) |
申告不要 | ・株式等譲渡損失と損益通算が可能(所得税・住民税) (ただし、他の証券会社とは不可) ・所得が高くなっても税率(15%)は一定(所得税) ・税率(5%)が低い(住民税) ・確定申告の手間が不要 | ・配当控除を受けられない(所得税・住民税) ・所得が低くても税率(15%)が一定(所得税) |
所得の少ない方は、所得税に関しては強力な配当控除が使える「総合課税」がお得です。
一方で住民税に関しては、通常は、税率の低い「申告分離課税」が有利です。
主婦のAさんは、所得税については総合課税を、住民税については申告分離課税を選ぶのがお得なようです。
「申告不要」は「申告分離課税」の劣化版のようなものです。選ぶメリットは、配当課税に関する限り、皆無です。
唯一、確定申告をする手間がかからないというのが大きなメリットでしょうか・・・
だが、しかし・・・
ただし、「申告不要」を選ぶ大きなメリットは実は別なところに存在します。「申告不要」を選ぶと、Aさんの「合計所得金額」を計算する際に、配当所得が算入されなくなるのです。
この点は、実はとても重要なポイントです。一般論として、節税を考える場合、「合計所得金額」は少なければ少ないほど良いです。実際、所得の少ない主婦のAさんにとって、「合計所得金額」が増えることは百害あって一利なしです。
「合計所得金額」については、極めて大事なので、あらためて別の記事で詳しく説明します。
所得税と住民税で別の選択肢を選べる
さあ、大事なポイントが続きます。
そもそも所得税は総合課税を選んで、住民税は申告分離課税(又は申告不要)を選ぶということが可能なのでしょうか。
結論を言えば、可能です。
都合よく選べて良い感じです。これで気持ちよく納税できそうです。
ただし手続きが必要。
ただし、確定申告で総合課税を選ぶと、住民税も自動的に総合課税を選んだものとみなされます。
確定申告は、税務署に対して行う国税(所得税など)の申告です。その申告内容は税務署から市区町村に送られ、市区町村ではその内容に基づいて住民税を課税します。
税務署から送られてくる確定申告書で、配当所得について総合課税を選択していれば、市区町村では、住民税についても、配当所得について総合課税を選択したものとして取り扱います。
住民税について確定申告とは異なる選択肢(申告分離課税又は申告不要)を選びたければ、税務署に対する確定申告とは別途、市区町村の税務窓口に行って、その旨の手続きをする必要があるのです。
手続きは、市町村ごとに異なる。窓口で確認しよう。
確定申告と異なる選択肢を住民税で選択する場合に、どのような手続きが必要なのかは、市区町村ごとに定められています。
お住まいの市区町村の税務当局の窓口に行って確認しましょう。提出書類の書き方も含めて、丁寧に教えてもらえるはずです。
なお、念の為に申し上げておきますが、確定申告で「総合課税」を選んだ場合で、住民税で「申告不要」を選びたい場合、市区町村の税務窓口でそのための手続きが必要です。「申告不要」だから申告が不要なわけではありません。あくまでも「申告不要」という申告をする必要があるのです。ややこしいですね。
まとめ
今回は配当所得を申告する場合にどういう選択肢があるのかについて見てきました。
配当所得の納税方法は、総合課税、申告分離課税、申告不要の3つの中から選ぶことができます。
それぞれメリットとデメリットがあります。所得税と住民税とでは、メリットとデメリットが異なります。
所得税と住民税で異なる選択肢を選ぶことが可能です。
ただし、異なる選択肢を選びたければ、確定申告の他に、市区町村の窓口に行って、そのための手続きを行う必要があります。
コメント