優待クロスを行った場合のお得な納税について考える連載の第7回です。
前回までに、配当所得の納税方法についてどのような選択肢があるのか、どの選択肢を選べばお得なのかについて見てきました。
今回は、配当所得の納税方法の選択が、合計所得金額にどのような影響を与えるのかを見ていきます。
合計所得金額が増えると、節税という点からは、マイナスの影響が様々な方面に出てくる可能性があります。
配当所得の納税方法と合計所得への影響
前回の記事(第6回)で配当所得の納税については、①総合課税、②申告分離課税、③申告不要、の3つの中から納税者が選択できるということを見てきました。
どの納税方法を選ぶかによって、配当所得が合計所得金額に与える影響が変わってきます。
納税方法 | 合計所得金額への参入 | 影響の大きさ |
総合課税 | 配当所得の額をすべて参入 | 影響は大きい |
申告分離課税 | 損益通算後の額を参入 | 譲渡損失が多ければ影響小 |
申告不要 | 参入せず | 影響なし |
上の表をご覧ください。
配当所得について総合課税を選択した場合、その配当所得は、すべて合計所得金額に参入されます。
申告分離課税を選択した場合は、株式等譲渡損失と損益通算された後の配当所得の額が合計所得金額に算入されます。
申告不要を選択した場合は、その配当所得は、合計所得金額に算入されません。
納税方法によって、合計所得金額がかなり変わってくるということを、まずは押さえておきましょう。
合計所得金額とは何か?
さて、「合計所得金額」って一体なんでしょうか?
平たく言えば、その年のあなたの「所得」の合計額です。ほとんど説明になってないですね。でも、この程度の理解で、とりあえずは問題ないです。「収入」の合計額ではありませんよ。あくまで「所得」の合計額です。
「収入」と「所得」とは、税の世界では厳格に区分されます。このあたりの説明についてはこちらの記事(第2回)をご覧ください。
参考までに国税庁のウェッブサイトにある合計所得金額の説明へのリンクも貼っておきます。ほとんど意味不明です。
なぜ合計所得金額は重要なのか
では、なぜ合計所得金額が重要なのでしょうか?それは、次の説明を読めば分かります。
合計所得金額は、税務上、様々な基準や判定に使われます。以下をご覧ください。
- 扶養控除の要件・・・合計所得金額が38万円以下
- 配偶者控除の要件・・・合計所得金額が38万円以下
- 配偶者特別控除の要件・・・合計所得金額が38万円超123万円以下
- 住民税非課税の要件・・・合計所得金額35万円以下
上記の金額は、すべて令和元年以前の分の所得に関する基準です。令和2年以降の所得については、基準が変わります。
なお、住民税の非課税の要件については、障害者など一定の要件に該当する場合は基準が異なります。また世帯人数によって基準額が上がる場合があります。
旦那の税金に影響
先の説明で出てきた、扶養控除や配偶者控除は、扶養されている人が受けているものではありません。扶養している人(いわゆるブレッドウイナー(breadwinner))が受けています。
所得が少ない主婦のAさんは、夫に扶養されています。この場合、Aさんは配偶者なので、Aさんの夫が配偶者控除を受けています。この配偶者控除のおかげで、Aさんの夫は、払う税金が少なくて済んでいます。
Aさんのお子さんのBさんも、夫に扶養されています。Aさんの夫は、Bさんがいるので、扶養控除も受けています(ただし、Bさんが16歳以上の場合)。この扶養控除のおかげで、Aさんの夫は、払う税金がさらに少なくなっています。
Aさんの合計所得金額が38万円を超えると、Aさんの夫は配偶者控除を受けられなくなります。ただし、配偶者の場合だけは、配偶者特別控除という別の控除が受けられます。さらにAさんの合計所得金額が増えて、123万円を超えると、この配偶者特別控除も受けられなくなります。
Bさんの場合は、Aさんの場合より影響はよりダイレクトです。
Bさんの合計所得金額が38万円を超えると、Aさんの夫は扶養控除を受けられなくなります。配偶者特別控除のようなお助け措置は、Bさんに関してはありません。即、Aさんの夫の納税額が跳ね上がります。
配偶者(特別)控除や扶養控除が受けられなくなる影響は、結構大きいです。影響の大きさはAさんの夫の所得水準によります。
仮にAさんの夫が所得税20%、住民税10%を支払っているとして、配偶者(特別)控除と扶養控除が受けられなくなるとすれば、追加的に払わなければならない税額は、概算で、約22万円になります。ちょっとシャレにならないぐらい痛い額ですね。
仮にAさんの夫が所得税10%、住民税10%の場合はどうでしょうか。この場合、配偶者(特別)控除と扶養控除がなくなった場合に追加的に払わなければならない税額は、概算で、約14万円です。これでも、十分すぎるダメージですね。
Bさんの年齢が19歳以上23歳以下だとさらに多額の扶養控除を受けていますので、影響はもっと深刻です。
これらの控除について詳しくお知りになりたい方は、国税庁のウェッブサイト(配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除)をご覧ください。
奥さんや子供にも住民税
住民税に関しては、奥さん本人やお子さん本人の納税に直接影響します。
主婦のAさんやお子さんのBさんの合計所得金額が35万円を超えるとどうなるのでしょうか。
これまで住民税が非課税だったAさんとBさんは、住民税が非課税ではなくなります。
住民税には、住民税(均等割)と住民税(所得割)があるのですが、住民税(均等割)は、非課税から外れた途端、満額が即座に課税されます。
住民税(均等割)の金額はお住まいの地域によって異なりますが、東京都の場合、一人5,000円です。2人分だと、10,000円です。
住民税(所得割)も納税する必要があります。配当所得に対する税率は、総合課税の場合は10%(配当控除を加味すれば実質7.2%)、申告分離課税の場合は5%です。
合計所得金額が増えるのは百害あって一利なし
ここまで、合計所得金額が増えた場合の影響を見てきましたが、いかがだったでしょうか。
節税という観点からは、合計所得金額が増えることは、百害あって一利なしです。
一つ対応を間違えると、甚大な影響が出るでしょう。
ただし、過度に恐れる必要もありません。合計所得金額が基準額さえ超えなければ、影響は皆無です。基準額を少し超えたとしても、申告したほうがトータルで税金が有利になる場合もあり得ます。
特に配偶者の場合は、配偶者控除を受けられなくなっても、配偶者特別控除という別の控除が用意されていますので、合計所得金額が増えても増税になりにくいです。
納税方法によって、合計所得金額が変わる
さあ、それでは本論に戻ります。
配当所得の納税方法によって、合計所得金額が変わります。もう一度、この表をご覧ください。
納税方法 | 合計所得金額への参入 | 影響の大きさ |
総合課税 | 配当所得の額をすべて参入 | 影響は大きい |
申告分離課税 | 損益通算後の額を参入 | 譲渡損失が多ければ影響小 |
申告不要 | 参入せず | 影響なし |
総合課税を選択すると、もっとも合計所得金額が増えやすいです。
申告分離課税の場合は、損益通算後の額が合計所得金額に算入されますので、損益通算後の額が小さければ、それほど影響はありません。
申告不要を選べば、合計所得金額が増えることはありません。でも天引きされた税金が戻ってくることもなくなります。
納税方法についてどれを選ぶのかを決める際は、合計所得金額への影響も併せて考える必要があります。
複数の特定口座を持っている場合
複数の証券会社で取引をしている場合、合計所得金額への影響をある程度コントロールできます。
複数の証券会社(複数の特定口座)で取引している場合、証券会社ごと(特定口座ごと)に申告するかどうかを選べるからです。
一部の特定口座を申告し、残りの特定口座については申告不要を選択するといったことが可能です。
この場合、申告した特定口座の分は、合計所得金額に算入されます。申告しなかった特定口座の分は、合計所得金額には算入されません。申告分離課税を選択した場合は、損益通算後の額だけが合計所得金額に算入されます。
この仕組みをうまく使えば、合計所得金額を上手に38万円以内や35万円以内に抑えることも可能になります。
なお、一部を申告する場合であっても全部を申告する場合であっても、申告する場合には、申告する特定口座のすべてについて、総合課税か申告分離課税かを統一しなければなりません。
一部の特定口座については総合課税を選択して、別の特定口座については申告分離課税を選択するといったことはできません。間違えないようにしましょう。
まとめ
今回は、配当控除についての納税方法の選択が合計所得金額に与える影響について見てきました。
合計所得金額は、扶養控除や配偶者控除、住民税非課税などの基準として使われており、合計所得金額が一定金額以上になると、これらの控除や非課税を受けられなくなります。
配当控除について総合課税を選択すると、その配当所得がすべて合計所得金額に算入されます。
申告分離課税の場合は、損益通算後の額が合計所得金額に算入されます。
申告不要を選べば、その配当所得は合計所得金額には算入されません。
複数の特定口座で取引している場合は、特定口座ごとに申告するかどうかを選べます。
このことにより、ある程度、合計所得金額に与える影響をコントロールできます。
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